新しいつながりを都市農業から――篠宮 仁

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東京都東久留米市の篠宮仁さん(41)を訪ねました。 閑静な住宅地の中に、篠宮さんの畑はあります。 私立大学に4年間通った後、農業の世界に身を投じました。

最初から最後まで目で追える


――「篠宮」という苗字が多いように感じますが、この辺りは農家をやられている方が多いのですか?

篠宮さん:東久留米の中でも畑を持っている地域だから、ここら辺は農家さんが多いです。かなり前からだね。

――篠宮さんは何代目ですか?

篠宮さん:何代目かはちょっと分かんないけど、十何代目くらいですね。平安からっていう話もちょっと聞いたことがあります。いろんな説があるけど、もともとは京都の藤原の出で、それからこっちに来て。在原業平が古文書に残っていたりするみたいだからかなり古いですね。

――とても古くからやっていらっしゃるということですが、最初から農業をやろうと篠宮さん自身思っていたのですか?

篠宮さん:正直言うと、やりたくなかった。ちょうど僕らが学生の時期はバブルの終わりの頃だったんです。農業が「3K」って呼ばれる時代で、「きつい」「汚い」っていう感じだったしあんまり好きじゃなかったです。でも、長男で「ちっちゃい頃からやるもんなんだ」って教育されていたから、そういう宿命なのかなって感じていました。

――だんだんと好きになっていったんですか?

篠宮さん:なんだろうなあ、タイミングに恵まれていたんだと思います。はじめた時も結構数字になったりして、農業楽しいじゃないかって思い始めました。「これサラリーマンやっているよりいいかもしれない」という感じで。まあうまくいっていたのも長続きはしなかったんですけど。でも本当に面白いと思うまで10年くらいかかったかな。畑を作るところから、種をまいてその間の管理をして、収穫までやってというように、最初から最後まで自分の目で追えるのって職業としてなかなかないと思います。部分部分で携わっている人はいると思うけど、全体を通してとなるとどうしても少なくなるんじゃないでしょうか。

――「ここだけは他の農家には負けない!」と思われていることはありますか?

篠宮さん:特別そういう風に思っていること、ないんですよね。強いてあげるなら、基本に忠実にやっていくことが一番だと思います。基本って言うのは、やっぱり「土づくり」。皆さん土づくりにこだわりを持たれている方は多いですが、本当にその通りで作物が根を張りやすい環境、どんどん根っこを伸ばせる環境は良いものを作る。ほんと土づくりって大事なんです。

――土づくりに関して、具体的にはどういうことをなさっているんですか?

篠宮さん:基本的には良質な堆肥を入れてあげることと土の深さに気を配っています。土の深さは30センチよりも50センチのほうが良いし、50センチよりも1メートルのほうが良い。空気が土の中にたくさん入るし、水分であったり肥料分であったりのバランスが保てるようになる。そうすると病気にも強いし、しっかり根が張れるようになるんです。微生物に関しても当然良い菌と悪い菌がいるんだけど、良い菌が悪い菌の何倍もいるような土をつくってあげることがやっぱり大事です。

――動物性や植物性といった肥料の種類はどういったものを使われますか?

篠宮さん:うちは牛糞が中心です。ほんとは食物繊維の多いもみ殻とかの植物性が良いんだろうけど、なかなか手に入らないんですよね。一番手頃なのが牛。植物性はたまに使います。

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常に遊び心を持つ


――篠宮さんの野菜はどちらに卸されているのですか?

篠宮さん:今はスーパーです。市場を通さず、スーパーに直接卸すのがメインで、あとは「農家の台所」なんかのレストランとか学校給食とかですね。もちろん農協の直売所にも出店しています。今はほうれん草などの葉物を中心に、季節の野菜であったり枝豆とかを出してますね。

――農業において、どのような姿勢で取り組まれていますか?

篠宮さん:常に自分の中で遊び心(心のゆとり)を持とうと気にかけています。物作りをするうえで、『これ』というゴールはありません。常に、より美味しいものを、よりいいものを追い求め、研究をしていかなければなりません。まるで、研究者のようにね!その一方で、新しい可能性や新しい事に挑戦をしていこうと考えています。その時に、ちょっとした遊び心が必要なんです。野菜を作るにしても、当然メインの野菜はあるんだけども、一方で少し変わったものを作ることで見方を変えたりだとか視野を広くしたりだとかできると思っています。だから、遊び心(心のゆとり)を持とうと意識はしていますね。自分の好きな言葉に『No attack No chance』〜準備をしてきた者だけに、チャンスを掴むチャンスがある〜があります。

――「農家の台所」は特に変わった野菜も多いですもんね。メイン以外の野菜としてはどういうものがありますか?

篠宮さん:「トロ箱トマト」というものがあります。トマトはトマトなんだけど栽培方法が普通のトマトと違って、トロ箱を使って栽培しているから「トロ箱トマト」って名前がつきました。普通のトマトと比べて味が濃かったり、甘みがあったりします。トロ箱っていうのは発泡スチロールの箱のことで、自然の土に直接植えずに、根を張る範囲を狭めて根域制限をします。トマトなんかはいじめればいじめるほど味が良くなっていくので、ストレスをわざと与えています。



目の輝きが違います


――つながってmealプロジェクトについてどうお感じになりますか?

篠宮さん:こういったことは大事だと思いますよ。どういう形であれ、つくっている人間と実際に食べてくれる人間、消費者との距離がここ何年か注目されてきている中で縮まってきているのは事実なんだけども、まだまだ我々が情報発信しなければいけないのに情報発信ができていない。それができれば食品に対する安全なんかをもう少し近いところで感じることができると思っています。そういった意味では、間に入ってくれる人がいるって言うのはありがたいことですね。

――多くの人に農家さんの顔を知ってもらって、距離が縮まればと思っています。

篠宮さん:今はそういう流れですしね。ただね、僕の中ではブームとしての農業は終わったと思っています。去年から感じていたことで、新しい何かが出てきたらそちらに取って代わられてしまうだろうし、やっぱり自分で何かをしていかなきゃいけないと思っていて。安全・安心ってことは放射能の話と関係してくるし、まだまだ訴えかけるべきことはあると思います。

――具体的にご自分で何かされているんですか?

篠宮さん:僕は畑に来てもらうことが一番分かりやすいと思っています。百貨店なんかでも対面販売をやったことあるんだけど、それ以上に畑に足を運んでもらうことのほうが大事だし分かってもらいやすいです。直接見ていただくとお客さんの目の輝きが違いますね。普段から土に触れる、土と接する機会も少ないんだろうし、それが自分の手で収穫できる、その場で食べることができるっていうのは本当に目の輝きが違うし、実際ほうれん草が食べられなかった子が食べられるようになったりもしますしね。どういう理由かは分からないけど、自分で収穫したからかもしれないですね。

――対面販売も畑に来てもらうという行動も、経験されたからこそ分かる違いなんでしょうね。

篠宮さん:やっぱり畑に来てもらうことっていうのは、鮮度を一番分かってもらえますね。来てくれる年齢層は上から下まで幅広いです。子供を連れた家族連れだったり、若者中心のグループだったり。そういう人たちが中心にはなっちゃうけど、その上でおじいちゃんやおばあちゃんもこだわってか、自分の足で来てくれますよ。

――農業体験の事をどういった形でお知らせしているのですか?

篠宮さん:「農家の台所」をやっている国立ファームだとか、行政とかを経由してかな。行政の場合、市としての取り組みの一環として農業体験をやっているところもあります。

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都市農業が日本の農業を変える


――これからの農業、特に都市で行う農業はどうなっていくと思われますか?

篠宮さん:面白い産業だとは思っているんですよね。都市農業といわれる、東京を中心とした首都圏という大きな消費地の中でやっているんで、ニーズがほかにない規模なんです。その利点を活かしながらやっていけば新しいネットワークを作れると思うし、ちょっと大げさだけど、都市農業は日本の農業を変える大きな意味を持つと思っています。消費地の中でやっている農業体験は狭いところでできるコンパクトなものだし、それを地方にもっと規模を大きくしてできれば、農業の活性化につながっていくんじゃないかと。これだけ多くの人が住んでいるからこそなんだと思うんですよね。そういう意味ではすごく恵まれていると思うなあ。まあ厳しい状況に変わりはないとは感じますけどね。農業を取り巻く環境は高齢化だったり、跡を継ぐうちに畑の面積がどんどん減ってきたりいろいろあるから、それをどうにかして元気のある産業にしていかなければならないし、後継者がいない=産業が衰退していっちゃうんで、裾野を広げる意味で都市農業の持つ責任の大きさはありますね。

――最後に、消費者に向けてのメッセージはありますか?

篠宮さん:まずは興味を持ってもらえるように我々が工夫しなきゃいけない。消費者と農業関係者が手を結べるようにネットワークが少しずつできてこないと身近に感じてもらえないだろうし、そうすることで農業を少しでも理解してもらえる環境をつくっていきたいです。その中でこそ、新しい出会いに巡り合えるので。「あの人たち楽しいことやっているよね」っていう興味でもいいしね。いろんな野菜にいろんな種類があって、こういう食べ方があるんだ、こういう特徴があるんだって気に留めてくれることで、自然と野菜を通じて対話できると思います。まずはこちらから仕掛けていかなきゃいけないですね。

――篠宮さんの積極的な姿勢が伝わってきました。本日はどうもありがとうございました。



【プロフィール】
篠宮 仁(しのみや ひとし)さん
減農薬、減化学肥料。1町8反(約5400平米)の土地を家族3人とパートで管理している。
所在地:東京都東久留米市南沢1−14−11

【取材記者のひとこと】浅川 大樹
来年で農業と向き合って20年の篠宮さん。トロ箱トマトはうまくいったのか伺った時の「なかなか難しいねえ。失敗の繰り返しだよ」と答えたときの表情が印象的でした。くしゃっとした笑顔は年齢以上に若々しくて生き生きとしていました。瑞々しい心こそが、篠宮さんの原動力なのだろうなと感じました。

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